この世界の片隅に(上・中・下) – こうの史代

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2016年11月にクラウドファンディングによって資金を集めてアニメ映画化された作品。

舞台は1943年の広島県でそこから約二年間の期間、広島から軍港の街である呉に嫁いできた、すずを主人公とする日常もの作品。時代と場所でどのようなことが起きるのかはすぐに推察がつくことと思うが、しかしあくまでその状況下で生きた普通の人たちを書いた日常ものである。

戦時の日本の日常が描かれるが、当時の文化を忠実に再現して……みたいな評価は伊達ではなかった。学習用の漫画みたいに着物の裁断とか食事のつくり方とか警戒警報が鳴った時の対応とか事細かく書かれている。(もっとも単行本の最後にひっそりと「間違っていたなら教えてください 今のうちに」って書いてあって、かなり調べたけど不安もあったんだろう)

こうの史代作品は、これの予習で『夕凪の街 桜の国』を読んでいたくらいなのであるが、かわいらしい絵柄にブラックな内容を含む毒饅頭みたいな作風はこの作者のお得意のスタイルらしい。すずに十円ハゲが出来てることとかギャグになってるんだもんなぁ……。

他にも広島に落ちた原爆の光を何も書いていない真っ白な小さいコマで表現するとか、なかなかお目にかかれるものではない。少し離れた呉に居たため「よく分からないけど何か光った」程度の感想の主人公たちに、事情を知っている現代人は思わず愕然としてしまう。この作品は日常ものであって原爆投下はメインのイベントってわけでもないんだな。

全体的にそんな感じで途中まで深刻なシーンに見せて実はたいしたことなかったみたいな展開(憲兵に疑いをもたれるシーンとか)が多いのでほのぼのとしているのだが、3巻の前半で起きる事件での急展開で一気に辛くなる。それまではコミカルな描写の多かったすずが急に生々しい感情を見せるようになるのでギャップで凄い辛い。

例えば焼夷弾が家の中に入ったのに行動するまでに間がある所とか、実際にはとっさに動けない人間の描写と思ってリアルに感じていたのだが、あのシーンはこれで家が燃えれば誰にも咎められずに実家に帰れるという計算が働いている(が我に返って行動に移った)と聞いて背筋が寒くなった。

それで最後に終戦の決定で怒りを爆発させる。それまで朗らかに見せてはいたが、押さえつけていたものがここで噴出するのである。普通戦争の終結なんてハッピーエンドとするのが普通だと思うが、こういう描写が出てくるのがこの作品なのである。

細かいネタの多い作品だが、映画を見て初めて分かった描写が結構ある。あれこういう意味だったのか……という気付かなかった自分への呆れを感じること連発である。作中ですずが「ボーっとしている」とか「すぐに周りが見えなくなる」と全編にわたって言われているのを見て、しょっちゅう同じようなことを言われる私はとても他人事ではないなぁと思ったのだが、さっそくそれを実演することになってしまった。

そんな私は『最後に出てくるシラミだらけの子の母親は、自分の左側に子供を置くことで自分を盾にして守ることができたもう一人のすずのメタファー』というのを聞いて凄い感心しているのである。

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