あなたの人生の物語 – テッド・チャン

Facebook にシェア
Pocket

2016年放映されたSF映画『メッセージ(Arrival)』(記事)の原作となった短編『あなたの人生の物語』を含む短編集。

宇宙人とのファーストコンタクトから彼らの言語を学び、それが宇宙の捉え方に変容を及ぼす表題作は非常に衝撃的。収録された作品には表題作に限らず、『認識の変化によって自らも変化する』というテーマが共通して存在している。

〔ヒューゴー賞・ネビュラ賞・ローカス賞受賞〕地球を訪れたエイリアンとのコンタクトを担当した言語学者ルイーズは、まったく異なる言語を理解するにつれて、驚くべき運命にまきこまれていく……ネビュラ賞を受賞した感動の表題作はじめ、ネビュラ賞受賞のデビュー作「バビロンの塔」など、八篇収録する傑作集 – Hayakawa Online

既読作品であるが日本では2017年5月19日に封切られる映画の予習で再読した。私はあまり再読ってしないのだが、表題作に限らず読んだ当時衝撃を受けた作品のオンパレードである珍しい短編集で、その一方でなんか映画の予告が原作を理解できているのか不穏だしで読んでおこうと思ったのである。

時制はどうなっているんだ?と言いたくなるような印象的な出だしから始まり、ルイーズがヘプタポッド(正確にはゲイリーがそう呼んでいるだけで、終始”それら”呼ばわりされているが)の言語を解読していくシーンと、何故か自分の娘のことを断片的に語るシーンが、交互に語られる。それが何故なのかは途中から分かるわけだが、人間とは異なる宇宙の認識をするヘプタポッドの思考に脱帽である。また現代と未来のエピソードに関連を持たせて、かつヘプタポッドの宇宙の捉え方を研究と日常的な人間の思考の双方から説明する小説的な手法も単純に凄い上手い。

この短編集には『作品覚え書き』というチャン自身による作品解説がついているのだが、そこでこの話のテーマは、『スローターハウス5』(記事)の序文にカート・ヴォネガットが端的に書いているとして引用分を載せている。確かにこういう『どうにもならない運命をそれでも受け入れる』っていうのはヴォネガット的なニヒリズムを感じないではない。同著者の『タイタンの妖女』にも、過去・現在・未来が同時に存在していることを見通せるラムファードっていうキャラが出てくるが、影響を与えているかも。

巻末の山岸真の解説で

認識の変容が現実の姿をも変容させ、それは人間の内面世界にも反映される、というのはチャンの作品に共通するモチーフだ。 (p518)

と書かれている通り、チャン作品には一貫したテーマ性がある。『言語は思考を規定する』としたサピア=ウォーフの仮説をどうしても想起させるが、これ自体は現在では否定されているらしい。奇しくも今年ようやくアニメ映画で放映になった『虐殺器官』(記事)でも「もう古いよそれ」って言及されてたな。それでもSFに限らず『読んだ後に社会や人間、世界や宇宙の認識に影響を与えられて、もう元には戻れないのが良い読書』だと思っているので、それをそのまんまセンス・オブ・ワンダーとするチャンの作品をすごく評価しているのだ。

そういうわけで近代のSF作品で初心者に薦めるんならこれだなとか思ってたが、原語で2002年、邦訳は2003年発表か。いつのまにかもう15年も経ってるから近代じゃないかも。初心者にこれからも興味を持ってもらうには「こんなものがあるのか!」と思って貰わないといけないので、今でもこれが良いだろうとは思っているのだけれども。

Facebook にシェア
Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。