三惑星の探求 (人類補完機構全短篇3) – コードウェイナー・スミス

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コードウェイナー・スミスの人類補完機構全短篇集の完結編。未訳だったものや、訳されていたものの単行本に未収録だったものなどが多い貴重な巻である。

はじめに

2016年6月に第2巻が出て、次はいつ出るんだよと思っていたら一年以上経過してからようやく発売された。永らく未訳だった作品も収録されてこれでようやくコンプリート。SFファンでないと伝わらないかもしれないがめでたい話である。

11篇が収録されているが、「宝石の惑星」、「嵐の惑星」、「砂の惑星三人、約束の星へ」、「太陽なき海に沈む」の5篇が人類補完機構シリーズに該当する作品でいずれも単行本に収録されるのはこれが初。残る「第81Q戦争」以降の6篇は人類補完機構シリーズではない単独の短編であり、既に早川書房から出版されている文庫の再録になる。

各タイトル

宝石の惑星

キャッシャー・オニール3部作の最初の話。宝石の惑星ポントッピダンに連れてこられたあと、その飼い主が死んでしまったため取り残された状態となった馬を主人公キャッシャーらが救出する話。

旧地球(オールドアース)由来の動物は人語を解する下級民になっているのが当然の社会で、まったくその措置が取られていない(つまり現代の我々が知っているそのままの)馬が登場するところがミソかな。といってもテレパス能力持っている犬女を通して接続すると「会話」することが出来る。この話を通してキャッシャーはレーザー兵器に利用できる緑のルビーを手に入れる。

嵐の惑星

キャッシャー・オニール・シリーズ第2弾。目的の遂行に必要な宇宙船の確保の為に「ある少女の殺害」を依頼されたオニールが、「彼女」とだけ表現される謎の人物について散々謎を引っ張られながら本人のところにたどり着いて……みたいな話である。普通こういう話ってその人物について種明かしして終了となるのが常だが、このお話はなんとその少女ト・ルースにたどり着いた地点がお話の3分の1か4分の1くらいで、まだまだ続く。

で更に色々な謎で引っ張るもんだから

「もううんざりだ。ヘンリアダにきて以来、謎かけめいた言いまわしばかり。司政官からはきみを殺す任務を与えられ、ぼくはそれに失敗した。そこできみは、だれかを脅せといったのに、かわりに旨い食事を出した。そしていまは、脅威と闘うことをほのめかすそばから、またはぐらかしだ。さすがに腹がたってきたぞ。こんな調子で延々と、何度も何度も何度も――」

というオニールの発言に凄い感情移入してしまった。色々あってオニールは超パワーアップして母性に帰りました、というオチ。

補完機構はたいていのことには寛容だが、宗教の移植は徹底的に排除する対象のひとつにあげている。宗教というものは、どのようにしてか、惑星から惑星へと漏れ出してしまう。ときには下級民やロボットでさえもが、宗教の断片を携えて宇宙を移動するといわれる――さすがにそれはありそうにないが。補完機構は通常、宗教が一個の惑星にのみ定着している場合には放置しておく。しかし、補完機構のロードたち自身は、その惑星の民の信仰生活を遠ざけて、狂信的信仰が二度とふたたび星々のあいだで燃えあがらぬよう、二度とふたたび全人類に狂おしい希望と大規模な死をもたらすことのないよう、心血をそそいでいる。

世界設定的にはこれが結構重要な描写かな。オニールがト・ルースからまさしくその宗教知識の移植を受けるわけだが、記憶の操作かなんかをすれば大丈夫というよく分からない理論で切り抜ける。記憶操作って設定、ちょっと便利過ぎないですかね?

砂の惑星

前回で超人化したオニールがとうとう母星に帰り、念願であったクーデターを果たす……ことになるかと思いきや、宿敵であった伯父に別人を装って接触し、精神を平和志向に組み替えて終了という意外な結末に終わる。戦艦と兵隊引き連れて全面戦争するのも見たかったがコードウェイナー・スミスの作風じゃないかもな。

その後の話はなんかよく分からない。元補完機構のキャラと会って終わるが、思わせぶりな描写には色々あるんだろう。まったく理解できなかったが。多分重要な設定があるんであろうド・アルマが結局何者なのかも分からずじまい。

三人、約束の星へ

攻撃的なテレパスを宇宙に飛ばしている何者かを攻撃するために補完機構に派遣された三人、と言うか三体の話。まずテレパスを感知したのが前回の話で伴侶となったキャッシャー・オニールとセラルタなのだが惑星を超えて宇宙空間にまでテレパス感知できるらしい。どんなだよ、って感じだがこれによって感知した害意に対してこの三人が向かう、というわけだ。

相手を見つけて倒すところは「倒しました」ってぐらいですごいあっさり流され、異形の三体の中には実は人間が入っていてこの三人は降り立った星で幸せに暮らしましたとさ、という感じで終わる。出てくる単語の意味深さとか考えると色々な意味があるんだろうけどよく分からない……。

太陽なき海に沈む

人類補完機構最後の物語は、なんとスミスの死後に夫人が書いた作品である。それで出来の方は……うん、あんまりよく分からないというか補完機構的な寓意や読後感みたいなものが感じられないというか……。夫人はスミス存命時から共同執筆をしているから二次創作ってわけでもないんだろうけど。

第81Q戦争(オリジナル版)

人類補完機構全短篇の1巻目(記事)に改稿版が収録されているが、こちらはオリジナル版。あっちには大統領が米軍エースを呼んで「よく来てくれた。来てもらったのは他でもない……」的なエピソードがあったと思うが、こっちは戦闘機の戦闘以外の描写がほとんど無い。

西洋科学はすばらしい

火星人が人間とコンタクトを取ろうとするもコミュニケーションに失敗しまくるコメディ然とした作品。こういう作品も書くんだなぁ。他にコメディ調なのって『ガスタブルの惑星より』くらいか。火星人が相対するのが中国とロシアの将校たちで東西の政治ネタみたいなのが入るのがスミスのセンスなんだな。

ナンシー

外宇宙に出る宇宙飛行士が自分以外誰もいない絶望をソクタ・ウイルスなる現象を使って解消する話。これを使うとナンシーという自分にとって理想の女性が現れて孤独が癒されるという設定であるが、昔からこういうのあったんだな。今見るとARカノジョなんて言われそうである。

余談ながらこのソクタウイルス、途中でソクタ薬という名前に何故か替わってしまう。更に雑誌掲載時には結末の部分がバッサリカットされていたらしい。色々な大人の事情の影響を受けていると思われる。

達磨大使の横笛

人間の精神に働きかける力を持った横笛が大昔に偶然作られ、その横笛が時代時代でトラブルを起こす話。基本的に音色を聞いたら発狂するこの横笛が巡り巡って衛星放送の機械管理者の手に渡り、一度も吹いたことが無いのでその性能を知らないその技術者が、たまたま壊れた金属部品の代用としてはめ込んで、これからこの横笛を通した音声が世界中に……というラストで終わる。今読むと映画版の虐殺器官(記事)みたいだ。

アンガーヘルム

特定の文言が流れる音声を巡って、米ソがあたふたするポリティカルフィクションみたいな話。今では完全に疑似科学として扱われているサブリミナル効果が出てくるところに時代を感じる。既に死んでいる人物から兄に向けてのメッセージが入っていたというオチも含めて、全体的にスピリチュアルやん。

親友たち

宇宙飛行から帰ってきた船員が医者に「いったい何があったんですか?本当のことを教えてください!」って詰め寄る話。ナンシーと同じで実は彼の記憶は機械的に作られたもので親友だと思っていたのはみんな幻でしたという終わり。

終わりに

これ見て、巻末を見たらこんなことまったく掲載されていなかったのでようやく気付いたのだが、電子書籍版には解説は掲載されていない。1巻と2巻も見たが同じ。契約とかの関係で基本的にハヤカワの電子書籍には無いらしいのである。これはかなりガッカリだったので、不完全版を購入したという事実に気づいた時点からしばらく読む気力無くしてしまった。

そういうわけで旧版の文庫を電子書籍にしていたものを引っ張り出して解説を見るというなんだかなぁな締めになってしまったのである。これを機にハヤカワ書房の電子書籍は解説が付いているのかどうか考えて購入を躊躇う癖がついてしまった。

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