時間SF傑作選 ここがウィネトカなら、きみはジュディ – 大森望 編

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SFマガジン創刊50周年記念ということでテーマ別に短篇集が作られた中で、時間に関するSFを集めた短篇集。いろんなパターンを収録しており、アニメやゲームでもおなじみとなった時間SFはとっくの昔にやりつくしていたんだなぁという印象を受ける。

概要

男はいつもと違う色の天井の下で目覚めた。ここはウィネトカか? それとも……。人生をとびとびに生きる男女の奇妙な愛を描いた、SF史上に残る恋愛時間SFの表題作。ヒューゴー賞/ネビュラ賞/星雲賞の三冠を獲得した、テッド・チャンのアラビアン・ナイトとハードSFを融合させた書籍初収録作、時間に囚われた究極の愛の形を描いたプリーストの名作ほか、永遠の叙情を残す傑作全13篇を収めた時間SFのショウケース。 – Hayakawa Online

あとがきで触れられているが、日本は特に時間SFものを好む傾向があるらしい。元々人気ジャンルである、という印象であったが世界的に共通した傾向でもなかったんだな。ちなみにこんな本を読んでおいてなんだが、私個人はあんまり時間SFが好きではない。理由は「これで『無しになる』んなら積み重ねる意味もないじゃん」って感想になりがちだからである。実はこの本、何年か前に一度読んでいるのだが、久しぶりにいろんな時間SFのパターンを集めたものを通しで読んでみたいと思って再読した。

短編ごとの感想

テッド・チャン – 商人と錬金術師の門

アラビアン・ナイト風のハードSFという変わった作品。輪っかを潜り抜けると過去や未来に向かうことが出来るワームホール型タイムマシンが登場するが、それを利用しても過去も未来も決して変えることが出来ない。『あなたの人生の物語』(記事)と同様、変えることはできないけれどそれを知ることで変化が生まれる……という作者お馴染みの「理解による変質」テーマに帰着したテッド・チャンらしい作風の作品。

クリストファー・プリースト – 限りなき夏

時間を凍結され再び解凍された主人公の1903年と1940年を交互の描写する物語。これ何で凍結されたのかの説明とか一切無いので時間が関係するロマンス特化の話だな。最後の描写的にもう一回凍結になったってことで良いんだろうか?

イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア – 彼らの生涯の最愛の時

マクドナルドは他の世界線でも存在するはず、だから時間移動に使えるよね!という多分後にも先にもお目にかかれない理由でタイムトラベル(というかこれ並行世界への移動じゃないかな)する。時間を移動するたびに主人公は年を取り、ヒロインは若くなるというすれ違いみたいな話。

ボブ・ショウ – 去りにし日々の光

本短篇集のハイライトの一つ。スロー・ガラスという「内部を通過する光が大幅に遅延するために過去を映し出す」という設定のSF界では割と有名なアイテムが登場する。

スロー・ガラスを売る店に入った主人公夫婦が店主の妻と子供と思しき姿を見かけるが、それはスローガラスに映った過去の映像であり実は本人らは既に死んでいた、という20ページしかない非常に短い話である。この短編を第1弾として同シリーズの短編4篇をまとめた『去りにし日々、今ひとたびの幻』という単行本を出している。

ジョージ・アレック・エフィンジャー – 時の鳥

過去に旅行に行ける時代に、紀元前に焼け落ちたアレクサンドリア図書館へ向かった主人公が見たものは「印刷された本」が並ぶというあり得ない光景。「人類が共有しているイメージが過去を規定する」というアイデアは面白いネタだと思うし膨らませたらいい線行くんじゃないかと思うが、短編なので種明かしで終わるのがちょっともったいない。「過去に時間移動できるならゴルゴダの丘はイエス・キリストの処刑を見る観客でいっぱいになるはず」問題(作中でほぼ同内容の指摘がある)から出発してこういう設定になったのかなぁ?

ロバート・シルヴァーバーグ – 世界の終わりを見にいったとき

時間旅行が可能になった時代に、世界の終わりを見に行った人々が体験談を語るが各々の経験が違っていて……という話から「世界の終わりなんて解釈違いでいくらでありうる」的な話なのかと思ったら、日常会話が凄い破滅的なのばっかりでなんじゃこりゃと思ったら「週末の日常化」っていうブラックコメディなのかこれ。

シオドア・スタージョン – 昨日は月曜日だった

設定が上手く呑み込めなかったのだが、時空間の法則が我々とは違う世界に主人公が迷い込みました、っていう話で良いのかな?今読むと「神様の手違いで異世界行った(けど戻ってきました)」っていう話に読めるな。

デイヴィッド・I・マッスン – 旅人の憩い

「場所によって時間の進む速さが異なる」という割合よくある設定であるが、主人公が軍人で戦時休暇を取って異なる時間帯を行き来する、という形をとっていることに特徴がある。時間の流れが遅くなっている銃後では攻撃が来る心配が低い為に戦争に無関心であり、敵との境界線から向こうがどうなっているのか判明していないがこちら側の攻撃がただ帰ってきているだけではないかという疑惑が立つオチが無常な読後感につながっている。

H・ビーム・パイパー – いまひとたびの

ケン・グリムウッドの『リプレイ』(1987年)が世界的に大ヒットしてからお馴染みとなったループ設定であるが、この設定はリプレイがオリジナルというわけではなく、1947年発表の本作の時点で既に扱われている。

40代で死んだ主人公が10代の少年として目を覚まし、様子がおかしいと訝しんだ父親にその時代では知りえないことを披露して味方に付ける。自分が死んだ原因である第三次世界大戦を止めることを主人公が決意するオチだが、「その時は父さんには大統領になってもらうからね」「う~ん、私が大統領か」という会話で終わっていてなんか笑った。

リチャード・A・ルポフ – 12:01PM

時間ループもの。同じ1時間を繰り返す主人公がそれから脱却しようとあがくが……という話で今見るとそれほど印象に残らないがTVムービーの原作になっているということなので当時は人気があったのかな。

ソムトウ・スチャリトクル – しばし天の祝福より遠ざかり……

時間ループもの第2弾。地球にやってきた宇宙人の勝手な要望で同じ一日を700万年(!)繰り返すことになる話で時間ループを全人類が自覚している。ハムレットでギルデンスターンを演ずる役者が主人公だが、ループを自覚していても自分の行動にあらがうことが出きない状況では確かに演劇の様なものかもしれない。

イアン・ワトスン – 夕方、早く

時間ループもの第3弾。これも全人類が時間ループしていることを自覚しているタイプの話で、人類史の発展を一日で辿り、朝は原始的な状態になるが途中で産業革命が起きて文明が発展して夜には文明の利器が使えるようになる……という設定。イアン・ワトスン(前者は共著とはいえ)この本で2回目の登場なのだが、奇想家なのはいいんだけど脈絡や寓意にかける印象なのでそんなに響かないんだよなぁ。

F・M・バズビイ – ここがウィネトカなら、きみはジュディ

カート・ヴォネガット・ジュニアの『スローターハウス5』(記事)でおなじみの痙攣的時間移動者――人生の各シーンを過去未来関係なく飛び飛びで行き来する設定の物語。こんなタイトルだからヒロインのジュディを助けるためになんかやる話なのかと思ったらジュディは脇役。主人公同様の痙攣的時間移動者であるエレーンと不可避と思われていた歴史を変えてハッピーエンド。

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