「表現の自由」の守り方 – 山田太郎

アニメ・漫画・ゲームの様なフィクション作品の表現問題に詳しい政治家である山田太郎の新書。創作に関する政治・法律に興味を持つ層からはすでにネット上で有名人である著者には、私も前から興味を持っていたのだが、ふと著作は無いのかと思って調べて見たら、割と最近に本を出していたので読んでみた。

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規制への対抗活動

著者は元コンサルティング経営出身の参議院議員であり、漫画・アニメ・ゲームを規制する法律の発生を食い止め、創作物を守る活動を行っている。本書では

  • 児童ポルノ禁止法に含まれた規制
  • TPPに由来する、著作権の非親告罪化
  • 国連からの外圧
  • 「有害図書」認定

といった規制の流れに対して、著者がどのように対応したかが主な内容となっている。

その戦い方はタイトルが示す通りの「永田町流の戦い」である。著者の基本戦術は

国会とは、事前に十分な準備と根回しをした上で、答弁者の言質をもらう場だと私は考えています。会社の役員会と同じなのです。役員会は、その場で役員同士 がディベートや言質大会をするためではなく、事前に準備や根回しをして、公式の場で物事を確認するためにあります。国会も同様で、そこは議論だけをする場 ではない。 (p187)

この文章に端的にまとめられていると思う。表現の自由を脅かす流れを察知したら、すぐさま関係各所に報連相を取る。そして国会の質疑応答で発言する内容に間違いが無い事を確認した上で、代表者の言質を取る。大人の対応というべきだろう。

また目的意識もはっきりしていて、例えば児童ポルノ法に創作物への規制となる附則の二条を含めようとした流れに対しては、

大切なのは、相手を論破することではなく、自分の勝ち取りたいものを勝ち取るための戦略です。そこで私が考えたのは、削除された附則の二条が附帯決議として復活する前に、こちらでも附帯決議を用意してぶつけてしまうことでした。附帯決議をこちらで用意すれば、「なぜ附則の二条を削除したか」ばかりが話題と なるような議論の流れを変えられるだろう。仮にもし附則の二条が復活してきても、二つの附帯決議の間ですりあわせを行って、対抗することができる。そのよ うな意図がありました。(p64)

こういう対応を取っている。この展開の前に「規制派の政治家は自分の好き嫌いだけで規制対象を決めようとしている」ことが語られているので、感情に左右されて目的を見失わないように努めるこの態度は余計に対照的である。

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創作物への規制に対する雑感

創作物への規制問題は、好き嫌いで人を裁く権利は誰も持っていない、という事実に終始する。法律という看板を借りてその力を奮うのならなおのことだ。そもそも規制をしようとしている側が大して事情を理解しているわけではないし、感情的で誤解に基づく理論で推し進めようとしてることも問題である。なので、

ICPO(国際刑事警察機構)は、「児童ポルノ」という呼称を各国の法執行機関が使用すべきではないと言っています。この呼称は、あたかも、そのようなカテゴリのポルノが存在するような印象を与えてしまい、児童に対する性的虐待・性的搾取の問題を矮小化してしまう、というのです。(中略)「児童虐待記録物」あるいは「児童性虐待記録物」といった呼び方に変えれば、問題点は明確になります。ポルノかどうか、性的に興奮するかどうかではなく、そこで被写体の児童が虐待されているかが問題なのです。もちろん、そうすれば架空の創作物は自動性虐待記録物か、なんて議論が起こることもないでしょう。 (p56)

こういう指摘はなかなかに重要である。このへんを踏まえて思ったのだが、著者が戦えている理由の一つに「規制派は上記のような(おそらくは時に意図的な)ずれた理論に基づいた発言をしているので、ゴリ押し以外に法案を通す根拠となる力が全然無い」という事情も作用しているに思われる。(実際、与党が根拠として使用できるデータを持っていない、という内容の言質も著者は取っている)

まとめ

一読して規制反対層に支持される理由はよく分かった。ただ私は政治的な主張はしたく無いし、どんなものであっても絶賛するようなことは避けたい。なので帯には本書で著者との対談も行っている漫画家の赤松健(漫画「ラブひな」「ネギま」の作者であり、絶版作品のWeb公開を行っている株式会社Jコミの代表でもある)の「君は知っているか?コミケを救った英雄を。」というコメントが書かれているが、こういう神格化みたいなことをすると慎重派の人間は支持しづらくなるので辞めて欲しい。まぁ、それが商売なんだろうけども……。

それにしても読んでいると、法律という重要な事項を扱っている割には、その流れ・展開は属人的だなぁという感想を持つ。

今回の自分の働きは、民間企業出身だからこそできたものだと思っています。(中略)野党議員の私にとって、自民党の部会は相手企業の経営会議の様なものです。(中略)物事を動かすには、いったい、だれに働きかければいいのか、誰の口から何を言ってもらえばいいのか考えていかなければならない。その時に役に立ったのが、民間で経営し、大きな会社相手に改革のプロジェクトを展開してきた経験だと思っています。(p116)

永田町で規制問題に切り込んでいくのは、こういう畑出身の人のセンスでないと出来ないことだったのかもしれない。

最後に余談。星海社は、一般にはあまり有名ではないがネットを中心に評価された人物を取り上げてくれる(この間読んだ、原田実の「江戸しぐさの終焉」なんかもそうだ)のは良いのだが、ぜひとも電子書籍版も出して欲しい。引用するの楽だからね……。

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