泰平ヨンの航星日記〔改訳版〕 – スタニスワフ・レム

海外SF小説の業界で高い評価を受けているスタニスワフ・レムの連作短編集。一応ユーモアあふるる書き方になってはいるが、かなりハードルの高い作品だった。

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レム作品で既読なのはソラリスだけ。今年になって出版された「海外SFハンドブック」という早川書房のSFガイドブックがある(既読)のだが、そこのオールタイムベストで一位になったのがそのソラリスだった。つまり非常に高い評価をされている作家なのだが、私は今まであまり読もうという気にならなかったのである。なんでだろう?J・G・バラードなんかと同じで評価はされているがフォロワーがいなかった作家だからだろうか?

主人公の泰平ヨンぐらいしか共通とした部分が無い、様々な宇宙人やその文化を題材にした短編集であり、各話で全然違う内容がテーマになるのでなかなか読むのが辛い。途中でう~んとなって解説のほうを見てみたが先に読んでおけばよかったと痛感した。各話は書かれた年代がバラバラであとから改訂が加わったりもしており、後年はレムの興味がメタの方向に向かっていったので序文などにそういう要素を入れてあるらしい。この辺は踏まえておかないとなおさら読みにくい感じだなぁ……。

読んでいて、な~んかSFらしい面白さを感じないんだよなぁ?と思っていたのだが、多分上から目線な話のつくりにそれをかんじるのかも。普通SF作品って人間の非合理性を何らかの形で突くものが多いのだが、この作品は人間から見ると非常識な宇宙人を見て主人公が「まぁ、こういう文化もあるのかな……」みたいに帰っていくというパターンが多い。それはそれでよいのだが、これに限らず全体的にライトノベル作品でいうところの「俺TUEEEE!」みたいなものを感じるから「うわぁ」ってなるんだろうな。特に歴史改変に関する話は「地球上の歴史の有名人の一部は自分が送り込んでいて、あの文章は実は自分のことを指しています」みたいな内容なので、猛烈に寒いというか……。

SFで読んでて気持ち悪いっていうのはなかなか感じることが無いので意外だった。自分自身の価値観で、知らない文化をこき下ろす、という行為は私からすると一番SF「ではない」行為なのである。やっぱり自分には「SFでユーモア」は向いてない気がする。ふと思ったのだが、もしかして白人のナチュラルな差別感情をどこかに感じるからなんだろうか?

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泰平ヨンの名前の由来

ヨンはともかく、何で泰平っていう和風な苗字なんだ?という疑問を調べてみた。まず、この名前は

ミハイル・ショーロホフの静かなドン(Тихий Дон)を元ネタにした、Tichy Ijonという名前であるそうだ。それを翻訳家の袋一平がTichyの部分を和訳して泰平にしたらしい。なんで部分的にそんなことをしたのかよく分からないが、ティッヒ・ヨンで良かったんじゃないのか?

どうでもいいが日本人が静かなドンと聞いても、新田たつおの漫画「静かなるドン」のサングラスのオッサンの絵しか浮かばない人が大半だろう。まさかスタニスワフ・レムでそんなことを思うことになろうとは……。

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