あまたの星、宝冠のごとく – ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

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SF界の大御所ティプトリー・ジュニアの新刊短編集。この世を去ってずいぶん経つ作家だが、短篇10作品のうち9作品が今回初訳となる。

各タイトル

アングリ降臨

宇宙人とのファーストコンタクトもの。なんだこれタルいなと思っていたら、いきなり「宇宙人のせいで決まったサイクル以外は全男性が種無し状態」というティプトリーらしい展開が。他の作品でもそうだけど男を苛め抜くの好きだなぁ。それでこの世界の社会は平和になったらしいが、人口が安定しない社会が上手くいくのって無理あると思う。この展開が作品の中で特に重要ではないこと考えると酷い描写をやりたかっただけちゃうんかと。

その後はアングリの正体についてのオチがあってオシマイ。実は下っ端でしたというのはアーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」みたいだな。ただ、そもそものロジックがあんまりよく分からなかったのでいまいちピンとこなかった。正確にいうのならこのロジックを使うなら、それで人間社会を書いてほしかったなぁと思った。

悪魔、天国へ行く

悪魔サタンが主人公のお伽噺風の話。サタン以外にもペテロとかミカエルとかが登場する。多分何らかの含意・風刺が含まれてるんだろうけど読み取れなかった。ティプトリーの時代に描かれた作品に言ってもしょうがないんだけど、神様の世界とかを普通の人間社会風に書く話ってもう食傷気味だ。

冒頭のエピソードで食用の牛や豚の肉がほとんど手に入らなくなった世界であることが書かれ、その後場面が変わって養子縁組センターに子供を預ける女性の話になったので嫌な予感になったわけだが、最後まで読んでもこの予感あたってたのかよく分からなかった。多分あたってるんだろうけど、最後にいきなり神様が出てきてなんか説明されて終了というよく分からないオチだった。単なる理解不足かもしれない。ところで原題はMorality Meatなのだがこんなにシンプルな邦題にしてよかったんだろうか?

すべてこの世も天国も

これもお伽噺風というかお伽噺そのものだ。食傷気味……SF読ませて……と思いながら読んだ。オチの台詞の意味汲み取れずだが、別にいいや。

ヤンキー・ドゥードゥル

個人的には大当たりの作品。お伽噺みたいなのが続いてたのに急に伊藤計劃みたいな戦時中の話になった(ちなみに小島秀夫がこの本をTwitterで面白いと言っていたが、その時に挙げたお気に入りタイトルにこれが入っている……けど関係ないか)。悲惨な展開になるのは目に見えていて「オイオイオイ死ぬぜアイツ」とか思ってたら(物理的にも)加速度を上げて悲劇的結末に突っ走っていく。いいよね……。

いっしょに生きよう

宇宙生物とのファーストコンタクトものだが、宇宙人側からの一人称視点が入っている(これと星に降り立った人類側の三人称が交互に書かれている)ところが面白い。「愛はさだめ、さだめは死」もそれを書いて評価されていたけど、難しいからあんまりないよなこのタイプ。

個人的なこの話のハイライトはテレパスで精神に侵入してくる宇宙人に対して強迫唄(カコネモニックス)を使って対抗しようとするシーンである。

「聞いたら忘れられないナンセンスな歌を学問的にそういうだけさ。いったん頭にはいったら、耳にこびりついて離れない。アルカブ9のときに、すこし仕入れたんだ。頭のなかにノイズががんがんひびいているから、テレパスが手を出せなくなる」(中略)「待った、もっと簡単なのがある。昔の小説家がひねりだしたやつだ──〈緊張、変徴、乱調のはじまりや〉

「昔の小説家」の部分に原注がついておりアルフレッド・ベスターの「破壊された男(創元社訳だと「分解された男」)」であることがお話の最後に説明されているが、歌詞の引用するなら「もっと引っぱるいわくテンソル」の部分だよなぁこれ。でもその部分を引用すると読者が「ナニソレ?」ってなってお話に集中できないかもしれないとティプトリー先生は判断したのだろう。多分。

昨夜も今夜も、また明日の

凄い短い。あれっ?と思ったら終わってしまって意図が汲めなかった。

もどれ、過去へもどれ

時間系SFで未来に行ったらディストピアだったという話。過去に戻ってきても記憶が残らないという設定だが、銃で殺すと死んだりするし未来から来た方から情報掴めたりしないの?って考えてしまうからか、あんまりよく分かんない設定だった。

未来を変えようとしても悲惨なのは変わりませんでした……ってオチだと思うんだけど、善良な人間であるにも拘らず殺されたドンの方が圧倒的に可哀想だから、コイツが不幸になっても自業自得という感想しかわかない。

地獄は蛇のごとくあらたに

地球キチガイという言葉があるのか知らないが、地球を最愛の<彼>として恋い焦がれ、会う為にずんずん突き進んでいく女性の話……書いてて自分でもわけわからない。これ地球はただの天体に他ならないのに主人公が勝手に人格を見出してるだけなのかと思いきや、実際に神格のようなものを備えた存在でしたというまたもや神様オチ。この短編集の中だけで何回目なんだよ……。

死のさなかにも生きてあり

全体的に死の匂いが強い短編集だが、この作品はとうとう死後の世界の話になってしまう。しかし個人的なこの話のハイライトは死神とか出てくる死後の話ではなく、そこに至るまでの話だ。徐々に気力の衰えを見せていく夫とそれを見守る妻、最後は銃で……というのは、ティプトリー夫妻の実際の最後を想起させるような展開である。そういう話を最後に持ってきたのは意図的なものを感じるのだがどうだろうか?

まとめ

あのジェイムズ・ティプトリー・ジュニアの新刊と聞いて発売されていることを知って即座にAmazonでポチってしまった。SFファンからするとそれぐらい評価されている作家なのだが、実際読んでみると当たりはヤンキー・ドゥードゥルぐらいかな……。途中でも触れたけど神様みたいな超常存在オチの話が多くてどうにも……。

  • 自然として存在する宇宙には超自然的なことは起こらないが、人間の脳という内宇宙においては主観的に何でも起こりうる。
  • だから超常存在なんていなくても、化学物質を使ったりすれば当人の視点では何でも起こりうる。

という考えが自分にとってしっくりくるから、こういう評価になるのかもしれない。

あと関係ないのだが巻末の解説が無くて唖然とした。語ることはいくらでもある作家じゃないのか?……と思ったのだが、どうやらこの本に限らず、ハヤカワは電子書籍版だと解説が無いらしい。ガッカリってレベルじゃないんだが……。

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